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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)254号 判決 1955年6月28日

主文

原判決中上告人等に関する部分を破棄し本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人細谷芳郎の上告理由、上告代理人細谷芳郎及び上告復代理人鍛治利一の上告理由は別紙添付書面のとおりである。

上告代理人細谷芳郎の上告理由第一点について。

原判決の認定するところによれば、被上告人が本件建物につき有していた所有権移転請求権保全の仮登記は、訴外渋江一行の不法な手段による抹消登記手続により抹消されたのであるから、この抹消登記は無効であり、従つて右仮登記はその登記の当時に遡つて効力を有するというのであつて、その判断は正当である。このような場合、仮登記権利者は抹消登記にかかわりなく原則として仮登記上の権利を主張し得るものと解すべきこと原判示のとおりであるが、抹消登記を真実と信じ建物の権利を取得したすべての第三者に対し一様に無条件に仮登記上の権利を主張し仮登記回復手続に対する承諾を請求する権利があると解することは相当であるとはいえない。けだし仮登記には本登記のような第三者対抗力はないのであるから、本件仮登記につき本登記が不当に抹消された場合と全く同じ解釈をとることは当らないばかりでなく、本件のような場合、第三者が抹消登記を真実と信じ建物につき善意無過失に正当な権利を取得しその対抗要件を具備するに至つたときは、その第三者が、回復登記により実質上不測の損害を受けないと認められるか、またはその損害が仮登記権利者の損害と比べて顧慮するに値しないと認められる場合のほかは、回復登記手続を承諾する義務がないと解するのを相当とする。原判決はこれらの点において法律の解釈を誤りかつ審理を尽さなかつた違法があり、上告理由は前示の点について理由があるに帰するから、他の論点について判断するまでもなく原判決は破棄を免れない。

よつて民訴四〇七条により全裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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